All archives    Admin

09月≪ 2017年10月 ≫11月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

2011'10.20 (Thu)

下駄物語

「かわいい下駄ですね、鼻緒は、あげは蝶ですか?」

隣のショートカットの女性からそう尋ねられた。
「いえ、これは金魚なんです。」
そう私が言うと、彼女は「あ、本当だ、素敵ですね」と微笑んだ。

デパートのエントランスで、その日は小さな物産展が開催されていた。
そこで煮干や菓子の出店に混じり、桐下駄職人のおじさんが畳二畳の店を広げていた。
男性用、女性用、子供用、そしてかわいらしい小さな飾り下駄が並んでいる。


紺色の作務衣を着た、桐下駄職人のおじさんは、とてもにこやかで話し上手。
畳の真ん中に胡坐をかいて、お客さんとおしゃべりしながら作業は進む。
足の上にしっかりと下駄の台をのせて、鼻緒をてきぱきすげていく。
10分で下駄は完成、見事な職人技。


おじさんの作業スペースの手前には、ずらっと下駄の台と鼻緒が並べてある。
カラフルな縞、縮緬風の花柄、男性用は「ウロコ」や「青海波」。
たくさん並ぶ鼻緒は、まったく同じ柄というものがない。
ひとつひとつ丁寧に作られたおじさんの手作りの下駄。
手に乗せてみると、驚くほど軽い。


ばらして置いてある鼻緒と台は、自分の好みで組み合わせその場ですげてもらえる。
足にあわせて履き心地を調整してもらえるので、びっくりするくらい履きやすい。
台が軽いので足の裏にぴったりと沿う、誂えの下駄はとても歩きやすい。


ショートカットの彼女は選んだ鼻緒をすげてもらっている最中だった。

彼女が選んだ鼻緒は、黒地のウロコ柄の鼻緒。台は平たいヤキの右近。
シックな鼻緒だと思ったら男性用の鼻緒だった。
ジーンズに合わせて普段に履く予定なのだと彼女は言う。
彼女が履いたら素敵だろうな。飾り気はないけれど素足がキレイな人だった。

私と彼女が談笑している間に下駄は完成。
彼女は出来上がったその下駄を試しに履いてみてすぐに気に入ったようだった。
うれしそうに彼女はそのままその下駄を履いて帰っていった。
さて次は私の番だ。


私のお気に入りの、赤い塗りの下駄。
着物をようやく自分で着られるようになったばかりの頃に東京の谷中で購入したもの。
小さな下駄屋さんの窓際にディスプレイされていたその下駄に一目惚れした。
ぽってりした赤い塗りの台に、リュウキンの柄の黒い鼻緒の下駄。


そのお店の店主で下駄職人のおばさんは、とてもしゃきっとしたかっこいい人だった。

「どこに履いていくの?お稽古事?それとも普段に?普段に履くんだったら大丈夫。ただし塗りの下駄は傷がつきやすいから踵とつま先に気をつけて」


東京から抱いて帰ったその下駄は、私を色々なところへ連れて行ってくれた。
気をつけていたけど、あちこちへ行く度に小さな傷をいくつもつけてしまい、だんだんつま先と踵の塗りもはがれ、踵も磨り減って、気づけばずいぶんぼろぼろになってしまった。

調べてみたら下駄というのは私が思っていたより寿命が短いようだった。
下駄の「歯」を取り替えることは出来ても、草履型の下駄の踵の磨り減りは修理しにくいようで、もうこの下駄はもうどうしようもないのか、と悲しく思っていた。

せめて、お気に入りの鼻緒だけでも残せないか、台を変えることは出来ないだろうか。
桐下駄職人のおじさんに相談してみたら、台は変えられるからその下駄を持っておいで、と言われた。
うれしくなってその日のうちに、赤い塗り下駄を持っていった。

下駄を見たとたん、おじさんが言った。
「これは良い塗りの下駄、まだこれは履けるけん捨てたらもったいなか!」
そう言うとおじさんは、下駄を足の上に乗せて作業を始めた。

鼻緒をすげなおし、磨り減った踵を削って、10分後にはすっかり買ったときと同じしっかりした履き心地の下駄に修理してくれた。
塗りが剥げたところは、赤いマニキュアを塗って修繕すれば大丈夫、とおじさんが笑って言った。

さっそくドラッグストアでマニキュアを買って塗ったらすっかり見違えた。
またこの下駄と一緒にいろんな場所に行けるんだと思ったらとてもうれしかった。
鼻緒の金魚の繊細な尾びれが、私が歩けばゆらゆら泳ぐ。
さあ、今度は一緒にどこに行こう。

PA202412.jpg



にほんブログ村に参加しています。よろしければポチッとお願いします!!

にほんブログ村 ファッションブログ ふだん着物へ
にほんブログ村
17:58  |  物語  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2008'03.14 (Fri)

さくら

どれがいい?

私がきいたら妹は、眉間にしわを寄せて、うーん、と唸った。
難しい顔をしながら、桐の箪笥の引き出にしまわれていた着物を広げてみている。なかなか決まらないようだ。

丈は足りると思うから好きなの、選びなよ。着せたげる。

私の箪笥の引き出しには、少しずつ集めたアンティークの着物が詰まっている。
「詰まっている」というのは正しい表現で、桐の薄い引き出しには一段に4枚くらいの着物がぎゅっと、しまってあるのだ。
この桐の箪笥は、私がようやっと着物を着れるようになったころ、着物をしまうのにどうしても白い桐の箪笥が欲しくて、自分で奮発して買ったものだ。初めは着物もあまり持っていなかったので、中に着物があるというだけで幸せだった。
けれど着物の数が増えるにつれて、この桐の箪笥だけでは間に合わなくなってしまった。
そこで普段着の銘仙やお召しは別の箪笥に。ウールは衣装缶の中に。
などとしているうちに桐の箪笥は、特別気に入っている着物だけをしまう場所になった。
薄青の着物は大きな蝶の模様と、黄色のはっかけが気に入っている。
真っ赤な絞りの着物。赤の矢羽に花篭のアンティーク。淡い緑に梅柄の着物。
黒地に細かい花模様の小紋は、胴裏が鮮やかな紅絹。

難しい顔をしていた妹が、これがいい、と指差したのは、薄紫の地に、流水に浮かぶ桜の花の着物だった。

やっぱりあんたはこれ、選ぶと思った。桜、好きだもんね?
私が笑うと、妹は秘密がばれたときのようなちょっと罰の悪そうな顔をして、こっくり頷いた。

妹が「お太鼓」は厭だ、というので、薄紫の着物にあわせて、淡いピンク色の半幅帯を文庫結びすることにした。
しかし着物を着付けてみると、裄も丈も少し足りない。おはしょりは短く、袖口からは細い手首がのぞいた。
あの小さかったのが、私の背を追い越すなんて。と、私はちょっと吃驚した。

妹に着物を着せた後、私も着物に着替えた。私は橙色に梅模様の着物に、白地に一輪咲く椿の柄の名古屋帯でお太鼓を結んだ。そして、二人で近所の小さなお蕎麦屋にお昼を食べに出掛けた。
妹と向かい合って食事をするのは、久しぶりな気がする。
私はきつね、妹はやまかけ蕎麦を食べた。
蕎麦をすすっていたら、耳にかけていた髪の毛が、ばさっと顔にかかった。まとめようにも躊躇半端な長さの髪を私は巧くまとめきれない。
すると妹が、ポーチからヘアピンを取り出し、器用に私の髪をまとめてくれた。
器用だねぇ。
私が言うと、妹は誇らしげな顔をした。
お蕎麦屋の窓から見える、気難しげな梅の木が、花をいっぱいにつけていた。

帰り道、薄曇りの空の下を、妹と歩いた。
雨が降りそうだね、なんてどうだっていいことを話しながら。

梅が散って、そして桜が咲く頃には、もう隣に妹はいないのだろう。
妹は早足で先を行く。軽快にからん、ころん、と下駄がなる。
私は梅を眺めながら、曇り空を振り仰ぐ。そしてゆっくり妹の後を歩いていく。


さくら2

21:21  |  物語  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2008'01.05 (Sat)

アゲハ蝶 物語2

アゲハ蝶だ。
そう幼い私の目に写ったのは、黒い着物を肩から羽織った姉の姿だった。
それは不思議な光景だった。黒い羽を纏う姉の、白い腕を細い腰を、白い紐がするすると蛇のように巻き付いて、姉を蝶に変えていく。
蛇が蝶を産むんだ。
私はじっとそれを、息を止めて見つめていた。少しでも声を出そうものなら、姉が飛び去ってしまう気がして。
春先の、まだ冷たい風がふうっと部屋を通り過ぎた。そのとき、着物の裾が、ふうわりと広がり、ちらりと朱がのぞいた。
鏡に向かっていた姉が、こちらを向いて微笑む。その唇は、着物の裾と同じ朱だった。
姉は私を手招きして、ちょっと髪をすいてくれない、と私の手に、つげの櫛を持たせた。
姉の髪をすくのは、私の仕事だった。姉の髪は少しも櫛をとおす必要がないほどいつも美しかったが、必ず姉は言うのだ。髪をすいてくれない、と。
私が姉の髪をすいているとき、姉は小さな声でいつも歌を口ずさんでいた。たいていそれは私には分からない、どこか遠い国の歌だった。
私が、きれいになったよ、と姉に櫛を返すと、姉は櫛を、ステンドグラスの小箱にそっとしまう。そして代わりに、キャラメルを一粒私の手に握らせて、また微笑んだ。
その小箱は、姉が特別大事にしているもの、カメオのブローチや、古い珊瑚の帯留め、小さな香水壜などがしまってあって、そしてなぜかいつも、一粒だけハートの形をしたキャラメルが入っていた。
包み紙を開けて、キャラメルをほおばる私の姿を、姉はじっと見ていた。

アゲハ蝶はもういない。
青虫がさなぎになって、蝶になって、そして姉はある日黒いその羽を捨てて、白い角隠しを纏って遠くへ行った。
あの小箱を、姉は置いていった。その中にもうキャラメルはなく、つげの櫛だけが残されていた。
鏡の前に立ち、私は姉の抜け殻の、黒い着物を羽織ってみる。
私もいつか、この羽を捨てていくのだろうか。
春の風が、ふうわり裾を揺らした。
20:30  |  物語  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2007'12.13 (Thu)

新しいカテゴリーについて

「物語」というカテゴリーを新たに追加しました。

語るには稚拙なものなものですが、あきはもともと文章を描くのが大好きなので、思いついたものをちまちまここに綴っていこうかな、と思っています。
で、今日アップした「初雪」というのがその第一弾です。

なんてことない文章がたらたら書いてあるだけなのですが。。。汗。
良かったら読んでください、ひまひまに、夜長に、朝のコーヒーと一緒に。

 
追記。
「お願い」を聞いてくれた皆様、ありがとうございました。50ポイントくらいHPが回復しました。
ありがとうございます。これからも勇者の剣を手に、経験値をつんでいきます。
はぐれメタル探さなきゃ。
18:05  |  物語  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2007'12.13 (Thu)

初雪

爪先の痛みで目が覚めた。
ゆっくりまばたきしたが辺りはぼうっと暗く、ほとんど何も見えない。まだ夜明け前なのだ。枕元においてある時計の針は、5時と5分を指していた。
もう少しゆっくり眠っておきたかったのに。

私は、冬になるとよくこうして、冷えた爪先が痛んで目が覚めてしまう。
厚い掛け布団の中にもぐりこんで、丸くなり、ぎゅうっと手のひらで足先を揉む。冷え切った爪先がじんじんした。

それにしても今日はずいぶんと冷える。
体を起こして窓のカーテンをそっとめくってみると、ほの暗い空から、ニワトリの羽のような雪がひらひら降っていた。
寒いはずだ。
雪はすべての音を飲み込んで黙らせていた。だから私も黙って、しばらくそれを見ていた。

今年、初めての雪。
ああ、初雪だ。

昔の映画のようなモノクロームの景色。ぼんやり見つめながら、私は思った。
あの着物、今日着よう。橙色に、梅柄の、まだ袖を通していないやつ。
ああ、でも昨日縫いつけた半衿の色があわない。付け替えよう。たしか鳥の子色の半衿があったはずだ。

枕元の明かりをつける。そして起き上がって、しんと冷えた部屋の隅のストーブに火をつけた。辺りがぼんやり黄色くなった。私は、部屋が温まるのを、布団に包まって待つ。

私は裁縫が得意ではない。半衿をきれいにつけようとなると、小一時間はかかってしまう。
そうしたら、着物を着あがるのは小学生の登校時間くらいになるだろう。
小さな男の子たちが家の前の道を歩いていくのが窓から見える。きっと今日は騒がしい。
雪が降っている。
うれしそうにみんな雪玉を投げあうだろう。
新しい着物を着て、蜂蜜をたっぷり入れたアッサムを飲みながら、部屋の窓ごしに私はそれを見るのだ。

部屋が温まってきた。私は起きだして、襦袢を広げ半衿付けにとりかかる。裁縫箱を手元に引き寄せ、小さな針穴に糸を通した。

17:55  |  物語  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
 | BLOGTOP |